宮内庁資料より

令和八年 歌会始

宮内庁資料より(皇族・召人・選者・選歌・佳作)

皇族殿下のお歌

御製

天空にかがやく明星眺めつつ新たなる年の平安祈る

天皇陛下には、元日の夜明け前、皇居の賢所で行われた歳旦祭などの神事の後、賢所の回廊から、まだ冬の空にひときわ輝く明星(金星)をご覧になり、澄んだ空気の中で、その美しさに感じ入られ、新たな年の平安を祈られた時のお気持ちをお詠みになったものです。この御製は、四方拝、歳旦祭の折に、賢所の回廊からご覧になった、歳旦祭の明けの明星を詠まれたものです。
皇后陛下御歌

メダル掛け笑顔明るき選手らに手話で伝へる祝ひのことば

皇后陛下には、昨年十一月、第二十五回夏季デフリンピック競技大会の開催と並び、日本で初めてとなる東京二〇二五デフリンピックの一年前イベントにご臨席になりました。その折に、障害のある方々に対する理解と、障害の有無にかかわらず、誰もが互いを尊重し、協力し合う共生社会が形作られていくことへの願いを込められ、これまでのご経験を通して、障害のある方々と少しでも直接お話ししたいと、手話を学ばれてきた皇后陛下には、水泳競技を先立ち、観戦された際、メダルを獲得した選手や、競技に臨む姿で、競技後に明るい笑顔が印象に残ったメダリストの皆さんに、お祝いのメッセージをお伝えになりました。手話で直接お祝いの言葉をお伝えになった、その時のうれしく思われたことをお詠みになりました。
皇嗣殿下

夜明け前一番鶏の鳴く声にアンルーナイの一日始まる

秋篠宮皇嗣殿下は、タイのアンルーナイ野生動物保護区を、赤色野鶏の調査のために訪れ、そこで一夜を過ごされました。夜明けの三十分程前に野鶏の鳴く声が聞こえ、正確な時間に鳴くものだと改めて感じられたことと、ここからアンルーナイの一日が始まるのだということを歌にお詠みになりました。
皇嗣妃殿下

雨降れば部屋で工作紙芝居「あそびのひろば」は明るい広場

秋篠宮皇嗣妃殿下は、有志のお仲間たちと、東日本大震災で被災した福島の子どもたちの心のケアをサポートする活動に携わってこられました。昨年の秋も福島県相馬市で活動がおこなわれました。当日は雨が降っていたため、屋内でおもちゃ、工作、本や紙芝居などを楽しみました。ご家族は、参加者が遊びを通じて、ひとときをすごす「あそびのひろば」が、明るい広場となったことを歌にお詠みになりました。
愛子内親王殿下

日本語を学ぶラオスの子どもらの明るき声は教室に満つ

愛子内親王殿下には、昨年十一月に初めての外国公式訪問として、日本との外交関係樹立七十周年を迎えたラオス政府の方々や多くの国民の温かく迎えした。ラオスご訪問になりました。首都ビエンチャンと古都ルアンパバーンのうちの一つ、ビエンチャンの中高一貫校では、現地のパートナーズ受け入れ校である高校で、日本語を学ぶ生徒と高校生が日本語で発音したり、日本語を元気な声で日本語の授業を参観されました。教室で日本語の伝統的な遊びである福笑いを楽しく学んでいる様子をご覧になり、ほほえましく思われたお気持ちをお詠みになりました。
佳子内親王殿下

ブラジルと日本で会つた子どもらの明るい未来幸せ願ふ

佳子内親王殿下は、昨年十一月、日本・ブラジル友好通商航海条約署名百三十周年におき、および「日本ブラジル友情の日」制定十周年を記念し、ブラジル連邦共和国をご訪問になりました。また十二月に、ブラジルの各拠点で日本語教育に携わるJICA(国際協力機構)の日系社会青年海外協力隊員と、ブラジルで日本語や日本文化の普及活動を行っている元隊員、そして、神戸市立海外移住と文化の交流センターに拠点を置く「関西ブラジル人コミュニティ」のブラジルにルーツがある子どもたちとお会いになりました。ブラジルを訪問された際、また日本で会った子どもたちの、明るい未来と幸せを願って、この歌をお詠みになりました。
悠仁親王殿下

薄明かり黄昏とんぼは橋のうへ青くつきりと俊敏に飛ぶ

悠仁親王殿下は、赤坂御用地内の橋の上を俊敏に飛ぶトンボに目を凝らすと、薄明かりの中で青い色の模様がはっきりと見え、それがマルタンヤンマだと分かりました。御用地内で夕暮れに高いところを飛ぶことが多いこのトンボを間近に見ることができたのが嬉しかった思い出を歌にお詠みになりました。
正仁親王妃華子殿下

夕暮れて富士登山する人多く列なす明りうごきゆく見ゆ

宮邸でテレビをご覧になっておられた時、夕暮れ時の富士山の映像をご覧になりました。その時のことをお詠みになったお歌です。
寬仁親王妃信子殿下

江戸川に打ち上げられし満開の花火明るし笑顔眩しき

江戸川の河川敷で開催された、第五十回江戸川区花火大会にお招きを頂きました折、打ち上がる満開の花火と感動する人々の表情をお詠みになったお歌です。
彬子女王殿下

祖父宮の語りたまひし異国の砂の文明間近に迫る

崇仁親王妃百合子殿下には、崇仁親王殿下とご一緒にご訪問されたエジプトを、五十年以上の歳月を経てご訪問になりました。崇仁親王殿下からお話を伺いしていた、ご著書の中で語っておられたり、関わりが深い遠い世界の出来事だとして胸に迫ってきたことを間近にお詠みになったお歌です。
憲仁親王妃久子殿下

佐渡島ほのぼの白く明けゆきて餌場に朱鷺の舞ひ降りきたり

憲仁親王妃久子殿下には、佐渡島にて、朱鷺が明け方に餌場である田んぼへ舞い降りる様子についてお歌に詠まれました。
承子女王殿下

参道を明るく照らす望の月見返ればはるか茜さす富士

承子女王殿下には、北越谷駅からご覧になった夕焼けに染まる富士山と、その反対に浮かんでいた巨大なスーパームーン。参道を明るく照らす満月と、振り返れば遠くに見える夕焼けに染まる富士山。とても綺麗だった様子についてお歌に詠まれました。

召人

上野 誠

杣山明るむ天に杣人の声ひびきたり「一本寝るぞ」

選者

三枝 昻之

あな尊茜に雲は染まりをり明日船出を言祝ぐがごと

永田 和宏

うるほひを含む大空の明るさがもう移ろひの季節と告げる

今野 寿美

また俺を置いていくのか明晰夢と知りつつ言へばふつと笑ひぬ

栗木 京子

東京に日出新聞とふありて号外も出す明治なりける

大辻 隆弘

明け方のすべての音を引き連れて今し列車は鉄橋わたる

選歌

室木 正武石川県

さざんくわの幹しらじらと立ちてをりきぞの夜ありし月の明かりに

マクミラン ピーター・J

大地震にたふれし明日檜の年輪を百までかぞふ製材前に

中川 文和京都府

訪ふたびに明日は行くと言ひし子の席空きしまま授業終へたり

八木 訓子東京都

夜明け前この世の息を吸ひ初めしみどり児か腕に子は父となる

菅野 公子茨城県

スクリーンに明朝体の文字並びチョークの音のしない教室

坂本 美弦青森県

停電の長びく夜に寡黙なる父が星座に明るきを知る

穐山 順子埼玉県

演劇部照明係の娘が照らす舞台のベンチをカメラに収む

鈴木 好行新潟県

静かなり一夜で変はる北の町障子戸越しの雪明りかな

和田 実希石川県

せがまれし地雷処理車の説明にながくなるよと前置きをせり

新堀 笙子神奈川県

真つ青な栞紐あり文明は川より生まれ出づるをおもふ

本間 優大新潟県

明礬の再結晶の実験は君への恋を形にしてる

佳作

渡邉 良臣山梨県

雪山の朝の北岳間の岳農鳥岳の放つ明るさ

逸見 征勝福島県

退院にあらず転医の道すがら「空がきれい」と妻は明るし

久保 茂樹大阪府

茜から藍へ移れるつかのまの波照間島に明けのしづけさ

渡邊 和廣宮城県

降るやうな星空の下ひたすらに夜明けを待ちし三・一一

木内 美由紀兵庫県

明太子パスタをゆつくり卷きながら職退く思ひなほ揺らぎつつ

佐川 智子東京都

大屋根に上りて見遣る万博は国々の名の灯りて明かし

中松 裕京都府

赤ちゃんが泣くと周りの乗客はやさしい透明人間になる

花塚 貴子大阪府

祈りとは夜明けをひとり待つことにどこか似てゐてあなたを思ふ

石井 涼新潟県

七台のクレーン車並ぶ渋谷駅今日と明日の間違ひ探し

稲田 雅新潟県

天井の照明の位置目印に背泳ぎ選手は速さを競ふ

𠮷野 くるみ新潟県

点灯夫街に明かりをともしてた明治時代の仕事を学ぶ

有賀 優希千葉県

数学の先生と目が合つたとき明暗わかるテストの点数

吉成 麻那愛媛県

「せんぱい!」と明るく手を振る後輩にはにかんでしまふ春の放課後

梶野 晴愛媛県

八〇年前ずつと小さい女の子この子に明日は来なかつたんだ